薬剤師にとっての素振り

運動選手や音楽家が基本的なスキルを向上させることに熱心に取り組んでいるのに比べて、技術者などの知的労働者は滅多に基本的なスキル(読書・メモ取り・アイデアを時間をかけて発展させるスキル)について意図的な練習を行わないのではないかという記事を見かけた1
言われてみると確かにそうで、野球選手の素振りのようなことを薬剤師という職業についてからはしていない。そもそもどういうことが薬剤師にとって「素振り(基本的なスキルの向上につながる取り組み)」に該当するのだろうか。あくまでも知的な素振りであるから、肉体的なものは含まれないのは確実なので、薬のピッキングや鑑査の動きの練習は含まれないだろう2

知的なスポーツである将棋の棋士は練習として詰将棋をやったり、棋譜を並べたり、ネットやAIで実戦を戦ったりしているらしい。実戦練習はスポーツでいうところの練習試合のようなものに当てはまるだろうから、ちょっと素振りとは違う。一方で詰将棋や棋譜を並べる辺りは、どちらも型を自分の体に叩き込むとするという意味で素振りに当てはまりそう。

とすると、薬剤師にとっての詰将棋や棋譜を並べるという行為はどういうものにあたるのか。他人の型を叩き込むという点で、症例ベースで学習できる本、ヒヤリハット事例プレアボイド報告を読むというのがそれになるのかもしれない。よく見かけるような症例で、文量が少なく、難易度も低めかつシンプルなものがいいと思う。現在の立場上、職場の疑義照会のデータを最近よく見ていて、これこそ素振りなのかもしれない3

この記事を書く前は素振りのようなことをしていないと思ったけど、実は無意識的に素振りをしていた。とはいえ、意識的に目的をもってやるのと、無意識的に目的もなくやるのとではスキル向上の点で雲泥の差があると思うので、今後はこういった素振りを積極的に取り入れつつ、目的意識をもって取り組んでいきたいところ。


  1. Athletes and musicians pursue virtuosity in fundamental skills much more rigorously than knowledge workers do↩︎

  2. そういうことを毎日やっているところなんてあるのか?↩︎

  3. 疑問符がつくような内容もあるけど、逆にそれがいいのかも。↩︎